こんにちは音楽家の西村です。
- 譜読みが苦手
- 演奏や作曲で表現力を付けたい
そんなお悩みありませんか。
実は、音階を学ぶことで譜読みのスピードが圧倒的に早くなり、自然な表現力まで身につきます。
なぜなら音階とは12音の中から7つの音を選ぶことなのです。つまり単純に難易度が7/12に下がります。それだけでなく、7つの各音には機能があります。緊張感のある音、安心感のある音などを理解することによって、自然な音運びをすることができるようになります。
私は、小6から音楽理論を学び始め、作曲をしながらも吹奏楽系のコンクールで10回以上金賞を受賞し、国公立音大へ入学しました。現在は高校音楽にて音楽理論等を教育しています。
この記事では、音階の理論についてまとめた記事です。次のことが分かります。
- 音階の歴史
- 全音
- 調号
- 階名から音を導き出す方法
- 調号から調名を導き出す方法
- 音階の機能
この記事を読むことで、音階の全容が理解できます。楽譜から調を読み取れるようになると、譜読みのスピードが圧倒的に早くなり、自然な表現力まで身につきます。
音階とは
1オクターブの中に並べられた複数の音のこと
現代では「ドレミファソラシド」と並べられた長音階が基本的な音階として知られています。しかし、それ以外にも数多くの並べ方が存在しています。
音階の歴史
音楽の最初は、「ある音に対して綺麗に響く他の音を探す」というところから始まっています。その最初はピタゴラスが鍛冶屋の前を通りすぎたとき、金属の打たれた音が綺麗に響くときとそうでは無いときに気づいたといいます。そして、片方の長さが1に対してもう片方が2という長さを持つとき、最も綺麗に鳴り響いたのです。これは後にオクターブと名付けられ、「同じ音」として扱われました。オクターブだけでは、「高低差がありすぎる」ことや「同じ印象」ということで、次に綺麗な音を調べました。そうすると、2:3の長さが次に綺麗であることが分かります。これは低い音を「ド」としたとき高い音は「ソ」となります。つまり、現代の理論でいう「完全5度」のことなのです。
5音階
そして、「ド」に対して綺麗な音を探していくのではなく、「ソ」に対して5度上の音を考えてみました。そうすることで、「レ」の音が発見されます。発見された音に対し5度上の音を考えることを繰り返し5つ目まで発見されました。
これは5音階(ペンタトニックスケール)と呼ばれています。それぞれが響き合うため、不協和音になりにくく、世界各地の民族音楽でも使われています。日本にも古くからある音階で、現代JPOPsでも多くのアーティストに愛用され、馴染が深いですよね。
全音階
しかし西洋では、5音階では緊張感や重さが出せずメリハリが無いため、もっと音を増やす研究が進みます。そしてそれは、7音が最適であるとされました。これを「全音階」と呼びます。※ 全音音階とは別の意味なので注意
そしてこの7つの音が選ばれ、後に役割が与えられるようになります。特に重要な音を終止音と呼び、メロディーの最後は終止音で終わるようになります。曲によって終止音は変わり、「ド」で終わる曲から「シ」で終わる曲まで7つの旋法が作られました。
これらを教会旋法と呼びます。
教会旋法とは
教会旋法とは12個の音の中から7つの音を選び、それぞれを終止音とした7つの旋法のことです。(厳密には変格と呼ばれる、他の旋法もあります。)
8世紀から少なくとも16世紀頃まで西洋音楽理論の基礎として使われていました。
イオニア旋法 | ||
ドリア旋法 | ||
フリギア旋法 | ||
リディア旋法 | ||
ミクソリディア旋法 | ||
エオリア旋法 | ||
ロクリア旋法 |
そしてその7つの旋法は16世紀以降、機能和声の発達によって、「ド」で終わるイオニア旋法が「長音階」へと、「ラ」で終わるエオニア旋法が「短音階」へと変質していきます。これら教会旋法と長音階・短音階は考え方が異なり、別の音階として扱われます。
そして16世紀以降から現代まで、教会旋法に替わって長音階と短音階が使われるようになっていきました。
しかし、20世紀以降ジャズ等によって教会旋法は見直され、利用されることがあります。
全音階(ダイアトニックスケール)とは
全音階(ダイアトニックスケール)とは、全音が5つ半音が2つからなる7音で構成された音階のことを指します。
似た言葉で全音音階というものがあり、これは全て全音でできた音階のことですので、注意してください。
全音階は長音階と短音階の2つを合わせた総称です。(厳密には教会旋法を含み、短音階は自然的短音階のみ)
長音階(メジャースケール)とは
長音階(メジャースケール)とはある音から全全半全全全半の順で並べられた音階のことです。
隣同士の音程は全て2度となります。ですので、音程の種類でいうと長長短長長長短とも言えるでしょう。
日本語音名で「ハ」から始めて長音階を作ると「ハ調長音階(Cメジャー・スケール)」となります。
現場では、一般的に「ハ調長音階」とは言わず、「ハ長調」と言ってしまう場合が多くあるように感じます。しかし、厳密には長音階と長調は違うものです。
長調(メジャーキー)とは
長調とは長音階を元に作られた音楽のまとまりのことです。長調は全部で12種類あります。(異名同調を含めない)
例えば、日本語音名で「ハ」を主音にし、ハ調長音階を主体として作られた音楽を「ハ長調(Cメジャーキー)」いいます。ハ長調でもハ調長音階の他に5音階や半音階など、複数の音階から作られることもあります。
調と音階の関係はややこしいので、現場では「Cメジャー(英語)」や「Cドゥア(ドイツ語)」という風にキーとスケールをまとめて省略することも多いですよね。日本語で「ハ長」とは聞いたことがないですけどね。
短調とは?
短調とは、音楽の調性の一つで、全体的に暗く、感情的な雰囲気を持つのが特徴です。音楽の調性とは、曲のキーを決定する基本的な音の集合を指し、これが曲のムードや感情を大きく左右します。
短調は、通常、悲しみや内省、時には神秘的な感情を表現するために使われます。これに対して長調は、明るく、希望に満ちた雰囲気を作り出します。この違いは、音階の構造と、音と音の間に生じる音程の違いから生まれます。
短調の曲は、映画やドラマの感動的なシーン、あるいはクラシック音楽の名作などでよく使われており、聴く人の心に深く響く力を持っています。
短調は基本的に次の3つの短音階を使い分けて作曲されます。
- 自然的短音階
- 和声的短音階
- 旋律的短音階
自然的短音階とは
自然的短音階(ナチュラルマイナースケール)とはある音から全半全全半全全の順で並べられた音階のことです。
隣同士の音程は全て2度となります。ですので、音程の種類でいうと長短長長短長長とも言えるでしょう。
日本語音名で「イ」から始めて長音階を作ると「イ調長音階(Aナチュラル・マイナー・スケール)」となります。
現場では、一般的に「イ調自然的短音階」とは言わず、「イ短調」と言ってしまう場合が多くあるように感じます。しかし、厳密には自然的音階と短調は違うものです。
調の関係
属調と下属調とは
長調は12種類存在します。「ちょっと多いな」と思ったあなたに覚え方を紹介します。
さきほど登場した属音について覚えていますでしょうか。主音に対して完全5度上の音でしたよね。それと似た言葉で属調という考え方があります。属調とは主音から見て完全5度上の音が主音となる調のことです。
例えばハ長調の場合、ハの完全5度上であるトが主音となる調、つまりト長調のことです。そして、ト長調は#が1つでした。
このことをまとめると、「属調は#が1つ増える」ということです。
例えば、ト長調(#が1つ)の属調は二長調ですが、ニ長調は#が2つになります。
しかし調号には#系だけでなく、♭系も存在します。♭系の場合は「属調は♭が1つ減る」と覚えれば大丈夫ですよ。
5度圏(長調)
属調へ12回移動すると、最終的に同じ場所まで戻ってきます。これが、1オクターブを12分割している理由です。そして、長調も12種類存在する理由になります。
この考え方を5度圏と言い、次の図で表せます。真ん中には長調の主音が書かれています。
これからも属調へ移動すると、♯が1つ増えるか、♭が1つ減っていることが分かります。
逆に下属調へ移動すると、♭が1つ増えるか、♯が1つ減っているとも言えます。
変ト長調か嬰へ長調、どっちを使うの?
変ト長調か嬰へ長調は名前や楽譜は違っても音の構成は同じです。これを異名同調といいます。どちらを使っても同じですし、聴いて判断することも難しいです。基本的に変ト長調の方が使われます。それは、♯よりも♭の方が見やすく書きやすい点があるためです。
しかし、同じ作曲者でも使い分けることがあります。それは「前後の調との関係性」や「記号が持つ性格」によるものだと考えられます。
長調と短調の関係、平行調とは
長調12種類と短調12種類の中で同じ調号のペアが一つ存在します。
例えば、ハ長調とイ短調は同じ調号を持ちます。どちも♯も♭も付けないという調号です。「ドレミファソラシド」と「ラシドレミファソラ」のことですね。つまり、調号が同じということは7音の構成音も同じです。
こういった調号が同じ関係を平行調とよびます。
つまり、開始位置を3度下から始めればいいだけなので、長音階を12種類覚えることができれば、短音階も簡単に12種類覚えることができます。
音名おさらい
このように音階を学ぶには各言語の音名を知っておく必要があります。
イタリア | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ |
英語 | C | D | E | F | G | A | B |
日本 | ハ | ニ | ホ | へ | ト | イ | ロ |
ドイツ | C | D | E | F | G | A | H |
詳しく知りたいかたは、この連載の「その2」に記載しています。
音階名から音を割り出す方法
「〇〇音階やって」と言われたときに音を答える方法をお伝えします。
- 音名を理解し1音目を知る
- その音から全全半全全全半の並びで並べる
- 2度になっているか確認する
たったこれだけです。
では実際に「ト調長音階」とはどの7つの音か考えてみましょう。
- STEP 1音名を理解し1音目を知る
「ト」をイタリア語で「ソ」ですね。
- STEP 2ソから全全半全全全半で並べる
臨時記号の付け方で2種類存在することが分かります。
もしくは
- STEP 32度になっているか確認する
全音階は隣同士がの音程が2度になっている必要があります。
- 答え答えは「ソラシドレミファ#ソ」
調号と臨時記号とは
前述のことからト長調の曲は基本的にファがシャープすることが分かります。楽譜にファを書くたびに、#を書いていてはめんどくさいですよね。そのため、音部記号の横に#を書くことでその段のファ全てに#を適用する、というルールがあります。これを調号といいます。
そして、ト長調の中でト調長音階以外の音階や和音を使うときに変化記号が必要になります。これら音符の左に付ける変化記号のことを臨時記号といいます。
調号の書き方、記号の順番を覚えよう
調号は毎回決まった順番で書かれます。上記のト長調を見て分かる通り、1つ目の♯は必ず「ファ」につきます。2つ目はド、というふうに続いていきます。
調号によって変化された音名はオクターブに関係なく効果があります。例えばト長調を表す次の調号は全ての「ファ」が変化されます。
しかし、調号自体がオクターブを変えることは原則ありえません。
伝わりますが、習慣によって違和感が生まれます。
♯系
左からファドソレラミシの順番で♯が付きます。それぞれの距離は5度であることが分かります。
♭系
左からシミラレソドファの順で♭が付きます。それぞれの距離は4度であることが分かります。
調号から調を判別する方法
演奏家にとって実用的で重要なのは「調号を見て調を判断すること」です。プロであれば間違いなく全員がこれを行っています。調が分かるということは、12つの音から7つに絞るということなので、単純に難易度が7/12に下がります。それだけでなく、「次の音が予想できる」「音の役割が理解でき表現力が上がる」などメリットは計り知れません。
判別する簡単な方法を紹介します。
♯系
一番右の♯の2度上が長調の主音になる。これだけ覚えればOKです。
例えば、♯が2つ付く長調を考えてみましょう。
♭系
一番右の♭の5度上が長調の主音になる。これだけ覚えればOKです。
例えば、♭が2つ付く長調を考えてみましょう。
主音に変化記号が付いている場合、調の名前も変わることに注意してください。調号は同じ音名ならば、オクターブに関係なく効果が反映されます。
各音の役割 音度と機能
ひとつ一つの音には機能があり、主要な機能は次の4つ
- 主音(トニック): メロディーの最後の音は主音で終わる。そうすることで、安心感を感じる。
- 属音(ドミナント): 主音と完全5度上の関係。主音と最も相性が良く、期待感を感じる。
- 下属音(サブドミナント): 主音の完全5度下の関係。主音と属音の間を取り持つような動きが多い。
- 導音: 主音と短2度の関係。7音の中で主音と最も不協和音になる。緊張感を感じることで、主音への推進力が生まれる。
まとめ
長音階、長調について解説しました。これらを理解することで、演奏のしやすさや表現力、作曲などに役立つでしょう。
大切で覚える内容は次の3つ
- 調号の書き方(♯ファドソレラミシ、♭シミラレソドファ)
- 音階名から音を割り出す方法(全全半全全全半)
- 調号から調名を判別する方法(♯2度上、♭5度上が長調の主音)
これが理解できれば問題ありません。上級者は瞬時に出せるように調号と調名を丸暗記しましょう。
次回、短調について解説します。